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4362 軒(平成20年12月31日現在)もの工場が集まり、日本でも屈指のモノづくりのまちとして知られている東京都大田区。そんな街並みを走る東急多摩川線の 沿線には、さまざまな業種の町工場が立ち並んでいる。民家と工場が共存する"住工調和"の街並みを眺めながら、大田区の誇る技術力を実感する旅へ出発―!
ま ずは蒲田駅から東急多摩川線に乗り、矢口渡駅で下車。向かったのはへら絞り加工が専門の㈱室賀シボリだ。へら絞りとは板金加工の技術のひとつで、金属版を 回転させながら、へらと呼ばれる道具を使って型に押し付けながら変形させていく特殊技術のこと。この技術は私たちの身の回りでは、鍋や鈴といった家庭用品 から新幹線やロケットの先端部分など、大小さまざまなものの加工に使われてきた。
室 賀シボリが創業したのは昭和36年、以来、へら絞り加工業者が集まる大田区で業界を牽引してきた。工場内には、スイスから取り寄せた一流メーカーの機械な どが所狭しと並び、熟練工たちが手際よく金属版を曲げていく。「同じ種類の金属版でも厚みや硬さが1枚ずつ微妙に違います。そのため、均一に曲げていくに は、熟練した技術と経験、カンが必要になってきます」と話すのは、創業者であり代表取締役会長の室賀正典さんだ。
現 在、同社は新潟工場とともに、この不況下にあって一定の受注を確保している。が、「へら絞りは最低でも3年は訓練しないと体が覚えない難しい技術。そのた め、若い職人がなかなか育たないんです。だから、私は80歳になっても現役をつづけているんですよ」と。今後は技術の承継が大きな課題となっているよう だ。
つ づいては武蔵新田駅で下車し、ダイヤ精機㈱へ。大手自動車メーカーに測定ゲージなどを提供するダイヤ精機も、かつては前出の室賀シボリのように、後継者不 足に悩んできた。その対策として代表の諏訪貴子さんが取り組んだのは、若手人材の確保だった。「とにかく若者たちに『製造業ってカッコいい』と思ってもら えるように、パンフレットを自分でデザインしたり、積極的に若者対象の就職フェアに参加したりした」そうだ。
も ちろん、若者たちが入社した後のフォローにも気を遣った。たとえば入社後の半年間は、社員と蕫交換日記﨟を交わし、一人ひとりの仕事ぶりや精神状態を チェックするようにしているという。また、それぞれに合わせた教育プログラムをつくったり、世代別の会議を設けて、会社への不満を吸い上げる機会を設けた りしているそうだ。きわめつけは、社内でつくったフットサルチーム。スポーツを通じて若手と熟練工のコミュニケーションを深め、世代間のギャップを埋めて いるという。その結果、若手にとっても熟練工にとっても居心地がいい空間となり、社員30名のうち若手と熟練工の比率を、半々にすることができたそうだ。
04年に創業者である父親が急逝、以来、こうして後継者を育てあげてきたという。「今後はひとりでさまざまな加工ができる多能工の教育をすすめていきたい。そうすることで、少しずつ仕事の幅を広げてきたいと思います」と諏訪さんは意気込んでいる。

「父親の時代はすべて手彫りだったんですよ」と話しながら、作業に励む赤塚さん。切れ味のいい工具を自作し、機械では加工できない細かい部分を手彫りしていく。最近は個人向けに真鍮製の印鑑なども製造・販売している
お つぎは下丸子駅からほど近い赤塚刻印製作所へ。主人の赤塚正和さんは、都内でも数少ない手彫り刻印の職人。父親が昭和36年に創業した店を継ぎ、40年以 上、この仕事一筋に生きてきた。「父の時代には都内に100人以上の手彫り師がいましたが、現在は10人も残っていません。私には後継ぎがいないので、い ろんな人に刻印の技術を知ってもらいたいと思っています」と。
現 在、同社では部品の製造番号などを打つための刻印などを製造。その最大の特徴は仕上げを手彫りで行っていることだ。工法は彫りたい文字や図柄を金属に転写 し、専用の機械で荒削りした後、最後はルーペや顕微鏡を覗きながら、たがねと呼ばれる道具で細部を削り上げていくというもの。最小0・4硺神の極小文字を 削り上げることができるという。しかも、完成した刻印は100万回の刻印にも耐えうるほど頑丈だそうだ。
と はいえ「時代の変化とともに、格安な大量生産品に押され気味になっている」と赤塚さん。そこで、最近では個人向けに真鍮製の印鑑や刻印を作ったりもしてい るという。「エンドユーザー向けの製品をつくることで、手彫りの仕事に魅力を感じている人がいることがわかってきました。これからも徐々に手彫り刻印の魅 力を伝えていきたいと思います」と赤塚さんは意欲的だ。
こ のように大田区にはハイレベルな技術を持った職人たちが数多く集まっている。が、その魅力は一般的なモノづくりだけにとどまらない。というわけで、最後に 鵜の木駅から北にしばらく歩いていったところに住む、モダンアート作家・高田栄一さん宅を訪ねた。もともと高田さんは印刷業界で働いていたが、83年に独 立して立体模型や撮影用の精密模型の制作に没頭。そして模型をつくるかたわら、余った材料で何かできないかと考え、木や革やプラスチックを使ったからくり 人形やアート作品などを試作してきた。
そ のひとつが革とクリップでつくった「フェイス」という作品。革に入れた切り目がクリップで開閉するようになっており、それがあたかも人の口のようにモゴモ ゴと動くようになっている。08年にはおもちゃメーカーのバンプレストがこの作品に着目し、顔の形をした貯金箱「フェイスバンク」を発売。2年間で60万 個を超える大ヒット作品となった。
そ んな独自のアイデアの生み出し方について聞くと、高田さんは「何気なく素材を眺めていると、アイデアが浮かんでくるのです。テレビゲームで溢れかえってい る時代ですが、アナログのおもちゃは客層を選ばないので、老若男女を問わず喜んでもらっています」と微笑む。これまでに試作したおもちゃやアート作品は 100点ほど。そのうち実際に商品化されたものはわずかだが、あとはギャラリーや祭りなどで販売しているという。
リーマンショック以降、受注減に頭を抱える町工場が多いといわれているが、こうしたユニークな発想を持つ人材とのコラボレーションが実現すれば、エンドユーザー向けの商品開発ができるかもしれない。やはりモノづくり大国の大田区、その底力ははかりしれない。 |