駐在中国メディア特派員が福島・奥会津を観光体験!! 印刷
2011年 2月 01日(火曜日) 13:53

奥会津の「特別旅行」で中国人観光客を熱烈歓迎!!

日本政府観光局(JNTO)は1月末、10年度の訪日外国人数について861万2000人だったと発表。目標の1000万人を大きく下回る結果となった。尖閣諸島の問題で中国人観光客が大幅に減少したことが原因のひとつだが、なにより政府の広報戦略や受入れ態勢の不備こそが最大の原因と考えられる。今後は、日本の良さをシッカリ伝え、観光客を精一杯もてなし、一人でも多くのファンやリピーターを増やす。そんな基本的な観光戦略こそ大事ではないだろうか。

小生はこれまで、北海道紋別市、青森県階上町、福島県奥会津地域、新潟県十日町市、石川県輪島市などでアドバイスを実施し、そのつど、中国人観光客の受入れを提案し、受入れ態勢の充実を訴えてきた。

肝心なことは、魅力的な観光商品を開発すること。そして町やホテルにおける中国語表記、中国語を話せる人材の教育などを徹底させること。これらをおろそかにすれば、大量のツアー客を受け入れても、リピーターにはなってくれないと思うとアドバイスしてきた。

こうした話を聞いて意欲を燃やしたのが福島県の柳津町、三島町、金山町、昭和村、只見町からなる奥会津五町村活性化協議会だった。この奥会津地域は高齢化に過疎化、産業の停滞、アクセスが不便なため観光も振るわず手をこまねいていた。

この際、勢いのある中国からパワーをもらって、なんとか地域を元気にしたいと思っているのだ。さっそく、「日中記者懇話会」の幹事を務めている中国国際放送局(北京放送、CRI)と東方通信社宛に、中国政府から派遣された駐在記者の招待を依頼してきたのである。

そこで弊社は、すでに奥会津と協働事業を展開しているNPO法人ふるさと往来クラブに協力してもらい、1月15日、16日に「在日中国マスコミ人モニターツアー」(主催は奥会津五町村活性化協議会)を実施することになった。

今回参加した中国人記者は、中国国際放送局東京支局長の謝宏宇氏、新華通信社(新華社)特派員の馮武勇氏、人民日報特派員の崔寅氏(女性)、日本新華僑通信社特派員の蒋豊氏。これに旅行会社の(株)平和ITC社長の周文氏と同社インバウンド旅行開発課長の劉彤氏(女性)も加わった。

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草鞋を履く「在日中国マスコミ人モニターツアー」の一行

周文氏は弊誌09年2月号のインタビューにも登場した新華僑系旅行会社のホープである。「従来のツアー商品といえば、ゴールデンルート(東京―富士山―箱根―大阪―京都)などが中心で、それらの地域からはずれた新規の観光商品には関心が薄い」と話す。そのため、奥会津のように新しく中国人観光客を開拓しようとするならば、周文氏のような新華僑系旅行会社の協力が欠かせないのである。

出発前、参加した中国人記者たちに奥会津の印象について聞いてみた。人民日報の崔寅氏は「そもそも福島県に行ったことがなく、奥会津のことは何も知らない」と話していた。他の記者もほぼ同様だった。ということは奥会津にとって、中国人観光客へのPRはゼロからのスタートといって過言ではない。

それにしても奥会津はアクセスが不便、日本人にとっても秘境だ。今回は東京駅から新幹線で郡山駅まで行き、そこから迎えに来た貸し切りのバスに乗り、バスで奥会津5町村を見て回った。平和ITCの  氏は「中国人観光客を迎えるなら、バスによるツアーでなければ高くてムリですね。問題はどこから出発するかです。羽田空港からか、福島空港(上海定期便)からか、それとも新潟空港(ハルビン、上海定期便)からかですね」と、いち早く商品化の算段をつけていた。

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編み組を体験。中国人観光客に受けるだろうか

ちなみに新潟空港はバス代などが割高のためコストがかさむという。そうであれば、定期便による上海からの観光客を誘客し、福島空港から入ってもらうルートが有力だ。場合によっては、北京・天津からのチャーター便という手もありそうだ。いずれにせよ福島県は空港の利用料やバス代などの値下げなども検討する必要があるのではないか。

さて、郡山で一行を乗せたバスは、まず柳津町に向かった。中国人記者たちは雪景色に見入っていた。中国国際放送局の謝宏宇氏は「中国南部の人は、これだけ雪深い景色を見たことがないでしょう。南部へのPRはきっと効果的だと思います」と話した。また、新華社の馮武勇氏は「映画『非誠勿擾』のように、雪原でのラブストーリーをつくって中国で上映したら、中国人はたちまちファンになるかもしれません」とも。

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かねやまスキー場を見学

ガイドとしてバスに乗車していた柳津町役場の目黒清志氏が、柳津名物の「粟まんじゅう」を中国人記者たちに配り、試食してもらうことに。目黒氏は「今からおよそ180年前、相次いで襲った災害に柳津の人々は困り果てました。そのとき『もう災害に蕫あわ﨟ないように』との願いを込めてつくった」と粟まんじゅうの説明をした。こうしたふるさと産品の物語を伝えることはとても大事なことだ。ただ、どうやって中国人に語呂合わせを伝えられるかが課題だ。この場合も「あわないように」という日本語のニュアンスを伝えるのはなかなか難しい。味については、日本新華僑通信社の蒋豊氏は「とてもおいしいですが、中国人の中には蕫甘すぎる﨟と感じる人もいるかもしれません」と。中国人の嗜好の研究も同様に必要のようだ。

その後、柳津を象徴する寺院「虚空蔵様」(正式名称は福満虚空蔵尊圓蔵寺)を訪れた。同寺院の歴史は古く、由来は1200年前にさかのぼる。804年、弘法大師・空海は唐に渡り修行を積んだ折、帰国する際に高僧より霊木を授かった。帰国後、大師は霊木を3つに分け海に投げた。そのひとつとめぐり逢った弘法大師がその木で尊像を刻んだという。この尊像を受けた名僧が圓蔵寺を開祖したと伝えられている。

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中国との縁もある「虚空蔵様」で記念撮影

この話で大事なのは、唐に渡った弘法大師が出てくることだ。中国と縁があるこの種の逸話は、中国人観光客に親しみを感じてもらえる。こうした逸話をたくさん掘り起こしていくことが大事ではないか。

その後一行は、「金坂富山工房」で微細彫刻を見学し、「三島町生活工芸館」では編み組細工を体験した。では、こうした体験観光は中国人に受けるだろうか。平和ITCの周文氏は「中国人にとって、体験観光はほとんど馴染みがない。そこまで中国人の観光ニーズは成熟していない。近年になってやっと中国人は海外旅行をするようになったばかりだ。だから、さっさと次の観光地に行きたいという人が多いと思う。ただ、今回自分でやってみると大変面白いと感じた。上海などの都市部の人は農村文化に憧れを持つ可能性がある。工夫すればいい観光商品になるかもしれない」と話していた。

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斎藤町長を中心に記念撮影

そして、三島町役場に到着。三島町長で奥会津五町村活性化協議会長でもある斎藤茂樹氏が一行を出迎えてくれた。「中国パワーで奥会津を元気にしたいと思っています。いきなり大勢の観光客に来てもらうとは考えていません。まずは知ってもらうこと、そして少しずつ中国のお客様を奥会津にお迎えしたい」と挨拶した後、意見交換会が行われた。

周文氏は「大規模ツアーを実施するのは難しいと思いますが、修学旅行を誘致するのはどうでしょうか。伝統工芸を体験させるのは子どもの教育にも最適だと思います」と話した。その他にも、町長たち自らが中国に出向いてトップセールスを行ったらどうか、という提案もあった。

たしかに、こういったトップセールスは中国では有効だ。そもそも中国は人治国家で人脈でビジネスをするケースが多いが、さらに揚子江を挟んで北と南では人脈は明らかに違う。また、「社会主義市場経済」という社会システムに加え、官(政治・行政・マスコミ系)の民(企業・ビジネス系)に対する影響力、そして官民ともに国家級と地方級に分かれており、外国との交流もその区分けに準じていることなどを知るべきではないか。もちろん旅行業務についても同様だ。

それだけではない。外国の旅行代理店は中国で営業活動ができないのだ。とすれば、やはり在中国の有力旅行代理店とコネをつけるとか、在日華僑系のルートを確保するといったことが重要になってくる。その意味でもトップセールスは有効だ。

とまれ、日本とこれだけの違いがあるのである。今から少しずつ仕組みを構築して、数年後に安定した観光ルートを確保するという覚悟でのぞむべきではないか。

ところで、昨年来日した中国人旅行客は141万人で韓国の244万人につづく数だった。その数からいって「そろそろ定番の旅行メニューではなく、特別旅行があってもいいのではないか」といった声もあがった。たしかに、そういったニーズを嗅ぎ取った日本の旅行代理店は、中国の観光関係の幹部を招いて旅行商品の検討をはじめているようだ。

「特別旅行」とは、単に観光地を巡ったり、ショッピングをしたりするだけでなく、その地の文化や郷土料理などを体験し、印象に残る旅行をしようというものだ。日本に何度か旅行に来ている中国の富裕層は、すでに家電の買い物やゴールデンルートの観光を体験済みであり、今度は日本にしかない文化や郷土料理を楽しみたいと思っている。しかし、今のところそういったニーズを満たす観光商品は乏しい。

ならば奥会津は、今からこの「特別旅行」の商品づくりを目指すべきではないか。奥会津一帯は只見川電源流域といって日本のエネルギーのふるさとといわれている所。只見川水系には20のダム、30以上の水力発電所がある。この電源開発を推進したのは、あの白洲次郎(51年に東北電力会長に就任)で「マッカーサーを叱った男」として有名だ。そういった逸話を中国人観光客にするというのも受けるのではないか。また、民話が豊富で古来から伝わる織物(からむし織)などがあり、きわめて文化水準が高い土地柄なのだ。それは奥会津書房という地元出版社があることからも、それがわかる。高品質の「特別旅行」商品をつくれる素地は十分にあるのだ。ちなみに、この「特別旅行」については、天津中国国際旅行社(前号登場)からも期待されている。

さて、こうして中身の濃い意見交換会が終わった後は、三島町の伝統行事「サイの神」を見学。これは激しい雪の中、それぞれの集落が独自の神木を立て、五穀豊穣、無病息災を願って行われるもので、最後には氏子が皆で火を放ち、その火で持参のモチを焼くという風習だ。福島県指定重要無形民俗文化財に指定されている。

これを見た中国人記者からは「中国では和諧社会をスローガンに国造りをすすめているが、日本人の結束力の強さや和の持つ威力を知った。中国人にはぜひ見せたい」と感動していた。

そして宿泊先の宮下温泉へ。JNTOの訪日外客訪問地調査(09年)によれば、中国人観光客の訪日動機の第1位は「温泉」である。奥会津には名湯が多いので、PRには力を入れるべきだろう。温泉につかった劉彤氏は「気持ちよくて時間を経つのを忘れてしまった」というほど。ただ、宿泊した旅館の規模が小さいため、大型ツアーなどには向かない。中規模ツアーか個人旅行者の誘客がベターではないか。

最後に、奥会津の郷土料理に触れておきたい。初日に「かあちゃんのまんまや」(柳津町)で農家の家庭料理を味わい、夜に「会津こづゆ」を食べた。2日目には「玉梨とうふ茶屋」(金山町)で幻のあおばととうふを試食し、「まほろば」(只見町)で只見の郷土料理「お平」と蕎麦を食べた。「お平」とは「平椀」にまいたけ、長いも、ごぼう、昆布、油揚げなどを盛った正月料理だ。味はどの料理も好評価だった。前出のJNTOの調査でも「日本の食事」は訪日動機の第3位にランクインしている。とはいうものの、郷土料理にまつわる物語をどのように中国人観光客に伝えていくかが工夫のしどころである。

なお、奥会津に中国人記者たちが訪れると聞いて、県紙の福島民報、福島民友などが取材に訪れ、後日新聞報道され福島県内で話題になった。

今回のモニターツアーに参加した中国人記者たちは、異口同音に「すばらしい旅行だった」「奥会津の丁ねいな蕫おもてなし﨟を感じた」と話していた。これは大きな手応えである。その一方で課題も数多く見えた。中国人観光客に魅力的な観光商品の開発。福島空港からのアクセスとコスト対策。中国語で奥会津の文化をどのように説明するか。中国語ガイドの確保と育成などだ。

これらの課題をイッ気に解決することはできない。また、ひとつの組織で取り組むのも困難だ。そこで、「観光商品研究会」(事務局は東方通信社)という組織の立ち上げを予定している。観光庁や中国国家観光局などの政府職員や自治体関係者、旅行会社やマスコミなどにメンバーになってもらい、魅力的な「特別旅行」をつくり、地域振興を実現していきたいと思っている。

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最終更新 2011年 2月 02日(水曜日) 13:55