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ゲスト〉
熊谷俊人(くまがい・としひと)
千葉市長
〈プロフィール〉
1978年生まれ。96年3月私立白陵高等学校卒業。01年3月早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。同年4月NTT コミュニケーションズ株式会社入社。06年民主党の市議会議員候補公募に応募、合格。NPO政策塾「一新塾」第18 期生。07年4月千葉市議会議員選挙(稲毛区)に立候補、初当選。09年6月千葉市長選挙に立候補、31歳で市長に就任(当時、全国最年少)、政令指定都市としては歴代最年少。
〈リード〉
政令指定都市の最年少市長として知られる熊谷俊人千葉市長。就任当初から徹底した歳出カット、歳入アップの施策を展開し、市の財政を着実に再生に導いている。この調子でいけば、千葉市は全国の自治体改革の成功モデルになりそうだ。そこで、今号では千葉市の行財政改革の現状と今後の展望について聞いてみた。
〈本文〉
政令市の首長を目指して
政治家の道を選択
並河信乃・本誌編集主幹 熊谷市長はもともと政令市の市長になりたいと考えていたそうですね。まずはそのあたりの想いからお聞かせください。
熊谷俊人・千葉市長 政治家を目指すほとんどの人は、最終的にかならず国政を目指したがります。そのため、私もいつ国政に出るのか、あるいは出る意志があるのかと聞かれることがあります。しかし、これからは地域主権、基礎自治体の時代ですから、けっして国政にこだわる必要はないと思うのです。地域がひとつの成功モデルを示し、それが国にインパクトを与えていくことだってできるはずです。そこで、私は政治家になるのであれば、基礎自治体の首長、とくにそのなかでも模範となるべき政令市の首長になりたいと思うようになったのです。それで、市議会議員を務めた後に市長選に出馬したところ、多くの方々の支持を得て市長になることができたのです。まさかこんなに早く市長になれるとは思っていませんでしたが、今は本当にやりたいことがやれるので充実した日々を送っています。
並河 市長就任時、千葉市は財政面で厳しい状況にありましたが、就任後に掲げた財政再建の手応えはいかがでしょうか。
熊谷 ここまで順調にすすむとは思っていませんでした。勝負の年は初年度の平成22年度でした。この年度にはさまざまな予算を大幅にカットしたので、抵抗も大きいだろうと思っていたのですが、案外と住民の皆さんや、議会でも認められ、今も支持されつづけています。この調子でいけば、平成27、28年には財政難から脱却することができ、自治体の財政再建のひとつの成功モデルになると思います。
並河 市職員や議員の報酬カットなど、多数の反対意見が出てもおかしくないような改革をすすめてこられましたが、どうしてこううまくすすめることができたのでしょうか。
熊谷 やはり広く地域住民から票をいただいたからだと思います。それにヨソ者にも寛容でやさしいという千葉の風土が影響しているかもしれません。地域の方々の後ろ支えがあるからこそ、思い切った改革をすすめることができているのです。ですから、私は市長に就任してからも、地域住民の皆さんの声をシッカリと聞くために、できるかぎりさまざまな会合などに顔を出すようにしています。
並河 歳出カットは順調にすすんでいるようですが、歳入の確保についてはどうでしょうか。
熊谷 現状では歳入確保も順調です。たとえば、私が就任してからは国民健康保険料を値上げすることもできましたし、市税の徴収率も上がりました。とくに市税の徴収率に関してはチョット無茶かなという目標を設定していたのですが、着実にクリアすることができています。国保に関しては全体的に低所得者が増えているので大変ですが、何とか議員の皆さんに理解していただき、順次値上げに協力していただいています。今年はとくに背水の陣で臨んでいるので、さらに歳入は増えてくると思います。
ほかの政令市に負けない
個性的な地域づくりを推進
並河 ところで、千葉市というと、横浜や神戸といった政令市に比べ、今ひとつイメージが掴みにくい感じがします。そういったほかの政令市とどのように差別化をはかっていきますか。
熊谷 雇用問題で差別化をはかっていきたいと思います。たとえば、関東の政令市では横浜市が長年にわたって企業誘致に力を入れていますが、それを越えるような企業誘致策を今年度からスタートし、実績を上げていきたいと考えています。これに関しては、今まで力を入れてこなかったので、伸びる余地は十分にあると思います。企業誘致がうまくいけば、法人税による歳入アップはもちろんのこと、雇用促進もすすむし、結果として定住人口を増やすことができますから。もちろん、人口増に関しては指名買いされる地域にならなければならないと思っています。たとえば、同じ千葉県でも船橋や市川ではなく、千葉市に住まいを置きたいといってもらえるようにしなければならないのです。
並河 そのためにどのような手を打っていますか。
熊谷 東京近郊の主要な政令市であるさいたま、川崎、横浜、東京西部などと千葉市を比較したデータを出し、千葉市の特色を明確にする取り組みを行っています。たとえば、千葉は真冬の平均気温がほかの政令市よりも高く、真夏は低いというデータがあるのですが、この点でも千葉が実にすごしやすい気候であるかということがわかってもらえるはずです。
そのほか、中学校の学校給食が100㌫になっているとか、小学校の子どもの一人当たりの校庭面積が広い、体力診断の成績が高いといった特色なども伝えて、子育て世代に対して積極的にアピールしていきます。また、最近では保育環境の整備もすすみ、待機児童の数も格段に減らすことができました。この千葉市を〝終の住まい〟として選択してもらえるように努めていこうと思います。
並河 市の概要ということでは市勢要覧がありますが、それとは異なるイメージのデータが集まりそうですね。
熊谷 市勢要覧では堅苦しすぎて、その地域のイメージがつかめません。ですから、データをもとに千葉市の魅力をひとまとめにしたパンフレットを作成したいと思っています。
並河 そういった子育て世代は千葉市のどのあたりに住むことになるのでしょうか。
熊谷 千葉市の人口増加はこのところ頭打ちになっており、今では空き家も出てきています。いまさら郊外にニュータウンをつくる必要はありません。今の市街地区域を活用しながら、ひとりでも多くの人たちに住んでもらいたいと思っています。
並河 まちづくりという点では商店街の活性化もテーマになると思いますが、そのあたりについてはいかがですか。
熊谷 商店街に限定した施策を行うつもりはありません。商店街施策の多くは「商店街は守らないといけない」という錯覚から生まれているように感じるからです。その感覚がダメなのです。そう思っているかぎり、商店街にお客は来ないと思います。お年寄りのためにも商店街は必要だという意見もありますが、実際には多くのお年寄りはスーパーに買い物に行ったり、宅配サービスを活用したりしています。キッチリとお年寄りの買い物実態を調査すれば、そうした結果は明らかになってくるでしょう。そうなると、商店街を守るための施策は結局のところ、ムダになってしまいかねません。それならば、むしろ宅配や御用聞きといった配達業者を支援したり、そういった業者の一覧表をお年寄りに配布するといったサービスを行うべきだと考えています。
並河 商店街にこだわらず、高齢化対策に万全を期すという方向性なのですね。
熊谷 そうです。買い物などの環境整備も大事ですが、それ以上にわれわれが大事にしなければならないのは健康を維持するための施設やサービスが身近にあることです。とくにお年寄りにとってはそういったインフラ整備が大事ですね。
並河 基本計画を拝見していると、科学都市戦略というものがありました。うまくいけば起業意欲を引き出すこともできるし、産業のインキュベーションにもつながると思うのですが、その展望についてお話しください。
熊谷 日本が科学立国であることは論を待たないところですが、実際に科学をベースにしたまちづくりが行われているかといえば大いに疑問が残ります。そもそも日本では科学が理系科目であるという思い込みがあり、文系の人間は科学を知らなくても当然といった風潮があります。しかし本来、科学は教養であり、全国民が有していないといけない知識のはずです。もちろん、そのための意識転換には時間がかかると思いますが、コツコツとやり遂げたいと思います。
並河 具体的にはどのような施策を展開していきますか。
熊谷 昨年度から「千葉市科学フェスタ」を行い、科学の魅力を住民の皆さんに知ってもらう活動をしています。このイベントではメイン会場での科学イベントはもちろんのこと、さまざまな科学関係団体にも参加してもらい、多くの市民に紹介しました。今後は国やJST(独立行政法人 科学技術振興機構)の支援を生かしながら、住民と科学系の団体をつなぐようなネットワーク事業も立ち上げていきたいと思っています。
まだまだ時間はかかると思いますが、そうやって徐々に科学を日常的なものにしていきたいのです。たとえば、敬老会で科学的なイベントや実験などが行われたり、市内の書店で科学系の雑誌がやたらと売れるようになったりしたら完璧ですね。最終的には千葉市で優秀な科学的な人材が輩出されるようになり、科学系の企業がたくさん集まってくるようになれば最高です。そうなれば、千葉市がシリコンバレーになるのも夢ではないはずです。
並河 科学といえばICTなどの話題もありますが、そのあたりについてはどのようにお考えですか。
熊谷 5年後には日本でもトップクラスのICT都市にしたいと思います。千葉市は政令市でもっとも情報システムの導入が遅れていましたが、国民に番号を割り振り、納税記録や年金、医療などの社会保障情報を管理する共通番号「マイナンバー」に関しては、積極的に導入をはかっていくつもりです。
並河 情報統制などの側面で反対する意見も出てきそうですね。
熊谷 便利だと思う人は使えばいいし、イヤだと思う人は使わなければいいと思っています。どうしても行政はゼロか100かで物事を捉えたがりますが、最初から100㌫である必要はないと思っています。
特区制度を活用して
施策のあり方を住民に問う
並河 今のようなことが結びついてくると、千葉市のイメージもハッキリとしてきそうですね。さて、これからはどのようなスタンスで市政を展開していきますか。
熊谷 特区制度なども活用しながら、現場にもっとも合ったまちづくりを実現していきたいと思っています。地域から国を変えていくようなスタンスで臨みたいのです。たとえば、私は文科省の教員免許更新制は必要性に乏しい制度だと考えているので、千葉市では更新を必要としない特区を申請することもアイデアとして持っています。本当に更新制が必要か否かを世に問うてみたいと思っています。
並河 大阪市の橋下市長とはまた違った手法で改革をすすめているように感じますが、その点はどうでしょうか。
熊谷 私の場合、外部の方々と連携するよりも、まずは自分がやれることをシッカリと行っていきたいと思っています。いくら周囲に仲間や同志を集めても、それぞれの立場は違いますし、自治体のあり方といった議論になってくるとコアな部分で異なる点が無数に出てきます。それなら、自分自身の市政改革に全力をあげ、後は連携できる人と組むというスタイルでありたいと思っています。
また、私は大胆な改革を穏健にすすめていきたいと考えています。現に千葉市は職員の収入に関して、政令市のなかで退職金をカットした唯一の市なのですが、それが大げさに報道されたりするようなことはありませんでした。というのは、事前に職員組合側とキッチリと話し合った末の結果なので、とくに揉め事が起こるようなことがなかったのです。議論は必要ですが、喧嘩は最終的に収集収拾するのが大変ですし、後々、周りの方々に苦労をさせてしまう恐れがあるので、避けられるものは避けたいと思っています。
並河 中国の天津市などと友好都市協定を結んでいますが、今後の中国にどのような期待を持っていますか。
熊谷 これまでは日本企業が中国に進出する時代でしたが、これからは中国企業が日本に進出する時代だと思っています。たとえば、幕張には国際展示会などを開催する幕張メッセがありますし、外資系企業にとっても馴染みがある土地です。それに東京までも近いし、外資系企業の優遇措置や法人市民税の実質100㌫減免制度もあります。こういった利点をもっとPRして、外資系企業の誘致に力を入れていきたいと思います。
並河 これからも独自路線で改革を着実に成功させていってください。本日はありがとうございました。 |